ELSIの研究者らは、プラスチック廃棄物からアミノ酸を合成し、それらを使ってタンパク質を生産する人工的なシステムを開発しました。このシステムは、酵素を用いてポリ乳酸プラスチックや二酸化炭素、アンモニアからアミノ酸を合成する一方で、その合成したアミノ酸を使ってタンパク質を生産します。同システムは細胞のように自己増殖する人工細胞実現に向けた大きな一歩となります。
無細胞系で生産されたPLA分解酵素(PLAase)がPLAを分解して乳酸を生成し、その乳酸からアスパラギン(Asn)、アスパラギン酸(Asp)、グルタミン(Gln)、グルタミン酸(Glu)を酵素合成します。合成されたアミノ酸は、タンパク質合成反応によって新たに合成されるPLAaseに取り込まれ、自己再生サイクルを形成します。 Nishikawa and Yu et al., ACS Catalysis 2024より転載
ポリ乳酸(PLA)などのポリエステル製品の世界的な生産増加は、プラスチック汚染による深刻な環境破壊をもたらしています。中でもPLAは植物由来の生分解性ポリエステルですが、自然分解に数十年を要します。PLAの生産が急増する中、コンポスト化や焼却処理には限界があり、効率的なリサイクル・アップサイクル技術の開発が急務となっています。
そこで、ELSIの研究者らを含む国際共同研究チームは、PLAプラスチック廃棄物からタンパク質の構成要素であるアミノ酸を生合成する革新的な人工システムを開発しました。この「プラスチック食べる」システムは、PLAや二酸化炭素、アンモニアからアミノ酸を合成する酵素の連鎖反応と、無細胞タンパク質合成システムから構成されています。
研究チームは、PLAモノマーの乳酸、α-ケトグルタル酸、CO2、アンモニアから、ピルビン酸を経由してアスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン、グルタミン酸の4種類のアミノ酸を一挙に合成する酵素カスケードを確立しました(図2A)。この反応では、アミノ酸の骨格(ピルビン酸)とアミノ基供与体(グルタミン酸)が同時に生成されます。最適化の結果、このカスケード反応によって、0.35mM〜4.75mMの収率でアミノ酸合成が達成されました(図2B)。
次に、このアミノ酸合成カスケードを4種のアミノ酸を欠く無細胞タンパク質合成システムと統合しました。PLAを分解する酵素PLAaseと緑色蛍光タンパク質をコードしたmRNAを添加すると、プラスチック由来のアミノ酸を取り込むことで蛍光タンパク質が生産されました(図2C)。
さらに、PLAaseをコードするmRNAを導入することで、細胞のように自身の構成要素を合成するシステムの確立に成功しました(図3)。同システムでは、まず無細胞系で合成されたPLAaseによってPLAが乳酸へと分解されます。続いてカスケード反応によって、生成した乳酸からアミノ酸が合成され、最後にこれらアミノ酸を取り込むことでPLAaseが再度合成されます。
この画期的なアプローチは、プラスチック廃棄物を環境に優しく高付加価値の生体分子に変換でき、石油資源への依存低減へとつながります。さらに、本成果は自身の構成成分を合成する人工細胞の実現に向けた大きな一歩となります。
研究チームは、このPLA食べる無細胞システムが、プラスチック汚染問題解決の糸口となりうるのに加えて、自身の構成成分を合成する人工細胞の実現に向けた大きな一歩となると考えています。また、同システムが酵素や多価体の合成や進化、広範な代謝ネットワークの研究に役立つ効率的なプラットフォームになると期待しています。
図2. PLAを原料としたタンパク質合成
(A) 乳酸から4種のアミノ酸(Asn、Asp、Gln、Glu)を合成するカスケード反応の模式図。(B) カスケード反応で得られたアミノ酸収率。(C) カスケード反応と無細胞タンパク質合成システムを組み合わせ、PLA(ゲル状(100量体)または粒子状(500量体))から緑色蛍光タンパク質(sfGFP)を生産した様子(左)と、最終的なタンパク質収率(右)。Nishikawa and Yu et al., ACS Catalysis 2024より転載。
図3. アミノ酸自己再生無細胞システムにおけるPLA分解酵素(PLAase)の時間経過合成
(A)アミノ酸自己再生無細胞システムの模式図。(B) ウェスタンブロット解析による経時的なPLAase合成量の評価。PLAゲルとスターターアミノ酸の存在下、効率的なPLAase合成が観察されたことから、設計した閉ループ回路が形成されていることがわかった。Nishikawa and Yu et al., ACS Catalysis 2024より転載。
掲載誌 | ACS Catalysis |
論文タイトル | Amino Acid Self-Regenerating Cell-Free Protein Synthesis System that Feeds on PLA Plastics, CO2, Ammonium, and α-Ketoglutarate |
著者 | Shota Nishikawa‡[a,b], Wen-Chi Yu‡[c], Tony Z. Jia[a,d], Ming-Jing He[c], Anna Khusnutdinova[e], Alexander F. Yakunin[e], Yin-Ru Chiang[f,g], Kosuke Fujishima[a,h]*, and Po-Hsiang Wang[c,i]* |
所属 | [a]Earth-Life Science Institute, Tokyo Institute of Technology, Tokyo 152-8550, Japan [b]School of Life Science and Technology, Tokyo Institute of Technology, Tokyo 152-8550, Japan [c]Graduate Institute of Environmental Engineering, National Central University, Taoyuan 320, Taiwan [d]Blue Marble Space Institute of Science, Seattle, Washington 98104, United States [e]Centre for Environmental Biotechnology, School of Natural Sciences, Bangor University, Bangor, Gwynedd, LL57 2UW, UK [f]Biodiversity Research Center, Academia Sinica, Taipei 115, Taiwan [g]Department of Agricultural Chemistry, National Taiwan University, Taipei 10617, Taiwan [h]Graduate School of Media and Governance, Keio University, Fujisawa 252-0882, Japan [i]Department of Chemical and Materials Engineering, National Central University, Taoyuan 320, Taiwan |
DOI | 10.1021/acscatal.4c00992 |
出版日 | 2024年5月2日 |