持続的で大規模な応力が加わることで、地球のマントル内の岩石はゆっくりと変形し、深部の内部から表面に熱を放出しています。このマントルの対流は遅いため均一ではなく、異なる領域にわたって異なる化学組成ドメインが存在するのではないかと考えられていますが、まだ明らかではありません。ELSIの研究者らの開発した解析技術は、地球深部の構造についての新たな一面を明らかにしました。

 

図1 地震は地球を伝わり、世界中の地震計で記録されます。(Credit: Jun Su)
 

地球内部の様子を知りたい科学者にとって、地震は有力な手掛かりのひとつです。地震によって発生した地震波は、地球を伝わり、世界中の地震計で記録されます。地震波のパターンの違いを分析することで、研究者は地球の起源や進化を理解するために必要な特徴的な構造を再構築することができます。

 

地震によって発生する地震波には、S波とP波の2種類があることはよく知られていますが、これらはそれぞれ異なる物理的特性に影響を受けます。その違いを利用することで、地球内部を通って世界中の地震計に記録された地震波が、どのような物質を通り抜けてきたのかを解析することができます。この結果は、X線で物質の内部を撮るCTのように画像化して解釈されるため、地震波トモグラフィーとも呼ばれます。

 

東京工業大学 理学院 地球惑星科学系の Jun Su大学院生(博士後期課程2年)、地球生命研究所(ELSI)のChristine Houser特任助教とJohn Hernlund 主任研究者らは、並列計算技術を活用し、P波とS波の速度モデルの解像度を調べる「トモグラフィー・フィルター」技術を確立させました。本研究では、このフィルター技術を用い、東京工業大学のスーパーコンピュータTSUBAME3.0を利用して、P波とS波の速度モデルの解像度を初めて共に計算しました。その結果、マントルの1% 弱を占めるP波とS波の両速度の脱相関は解像度の違いだけでは説明できず、化学組成の不均質があることを示唆することに成功しました。

 

さらに、本研究は弾性係数との関係で速度異常を考慮することで、マントルの速度構造に関する新たな知見も提供しました。具体的には、速度の相対的変位の原因として、体積弾性率に対してせん断弾性率の減少が著しいことが提示されたのです。また、P波とS波の速度相関が大きくずれる領域をLarge Uncorrelated Moduli Provinces (LUMPs) と定義し、その地理的位置を特定しました。

 

 

図2 本研究で 2000 km 以深のマントルで撮影された LUMP の三次元表示。黄色のLUMPは、せん断弾性率が体積弾性率に比べて著しく低下している領域であり、青色のLUMPは逆の傾向を示している。周囲のマントルは透明で、コアは白で表されている。(Credit: Jun Su)
 

顕著な正の相対値を持つ「正の LUMPs」は、アフリカと太平洋の地下の異常に対応し、詳細な構造を示し、組成の違いを説明します。これは、温度による弾性率の相対的な変化が打ち消されるためです。これらの結果は、マントル循環モデルの結果と比較することで、地球のダイナミクスを制約し、惑星進化についての理解を深める重要な手掛かりになると、研究グループは考えています。

 

掲載誌 Geophysical Journal International
論文タイトル Tomographic filtering of shear and compressional wave models reveals uncorrelated variations in the lowermost mantle
著者 Jun Su 1,2*, Christine Houser 1, John W. Hernlund 1,2, and Frédéric Deschamps3
所属 1. Earth-Life Science Institute, Tokyo Institute of Technology, Tokyo 152-8551, Japan
2. Department of Earth and Planetary Science, Tokyo Institute of Technology, Tokyo 152-8551, Japan
3. Institute of Earth Sciences, Academia Sinica, Taipei 11529, Taiwan
DOI https://doi.org/10.1093/gji/ggad190
出版日 2023年5月18日