土星の衛星タイタンは、分厚い窒素の大気をもち、表面には液体メタンの湖や海、有機物の砂丘が広がる「第2の地球」とも言うべき天体です。地球生命研究所(ELSI)の平井英人大学院生と関根康人教授らは、タイタンの大気中で作られるごく微小な有機物エアロゾルが、地表面の液体メタンの降雨蒸発によって、大きな砂サイズの粒子に急激に成長することを示しました。地球の砂は大きな岩石が破壊されてできるのに対して、本研究はタイタンでは微小粒子から砂ができるという新しい“砂”のつくられ方を提示するものであり、将来のNASAによるタイタン探査でこの説の検証が可能です。

 

 

探査機カッシーニがとらえた土星衛星タイタン全域の赤外線画像 。赤道域に広がる色の暗い領域が砂丘。Credit: NASA JPL

 

 

土星最大の衛星タイタンは、厚い窒素大気を持ち、光化学反応によって有機物エアロゾルが生成しています。地表には液体メタンの海や湖があり、赤道域は有機物から成ると思われる砂丘で覆われています(図1)。このように地球そっくりな地形もある一方で、砂丘をつくる有機物の砂粒子の起源はわかっていません。有機物エアロゾルが地表に落ちて砂になるのかもしれませんが、エアロゾルは100ナノメートル程度(1万分の1ミリメートル)、砂粒子は100マイクロメートル程度(10分の1ミリメートル)と大きさが異なります。仮に有機物エアロゾルをビー玉の大きさとすれば、砂粒子は5階建ての建物に匹敵するくらい大きさが違うのです。

 

研究グループは、このタイタンの砂がどうできるのかという謎に対し、液体メタンの降雨蒸発に着目しました。タイタンでは砂丘でも、液体メタンの降雨と蒸発がおきます。研究グループは実験装置を作り、タイタンの降雨蒸発を再現しました。すると、エアロゾルは液体メタンで集められ、それが蒸発する際に、エアロゾルから溶けた成分が糊(のり)のように無数のエアロゾルをくっつけて、効率的に大きな粒子になることがわかりました。

 

地球や火星、小惑星では、大きな岩石が温度変化や水の浸透などで割れて砂粒子ができます。一方で、タイタンでは無数のエアロゾル粒子が液体メタンの影響でくっついて、大きな砂粒子になっているのかもしれません。NASAは2030年代中盤にドローンを使ったタイタン探査を計画しており、本研究の予測は将来の探査によって確かめられると期待されます。

 

掲載誌 Geophysical Research Letters
論文タイトル Rapid Aggregation and Dissolution of Organic Aerosols in Liquid Methane on Titan
著者 Eito Hirai1,2*, Yasuhito Sekine1,3,4*, Naizhong Zhang2, Natsumi Noda1, Shuya Tan5, Yoshio Takahashi6, and Hiroyuki Kagi7
所属 1. Earth–Life Science Institute (ELSI), Tokyo Institute of Technology, Tokyo, Japan
2. Department of Earth and Planetary Science, Tokyo Institute of Technology, Tokyo, Japan
3. Institute of Nature and Environmental Technology, Kanazawa University, Kanazawa, Japan
4. Department of Geophysics, Tohoku University, Miyagi, Japan
5. Institute for Extra-cuttingedge Science and Technology Avant-garde Research (X-star), Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology (JAMSTEC), Kanagawa, Japan6 Department of Earth and Planetary Science, The University of Tokyo, Tokyo, Japan
7. Geochemical Research Center, Graduate School of Science, The University of Tokyo, Tokyo, Japan
DOI 10.1029/2023GL103015
出版日 2023年6月13日