世界的なアストロバイオロジーの学会AbGradCon2021は、ELSI主催でオンライン開催されました。本学会運営に関する成果を共有するため、ELSIの研究者らは学会の開催条件や成功例および失敗例、分析結果などを論文にまとめ、International Journal of Astrobiologyで発表しました。研究グループは、会議の開催・運営に必要なすべての側面を詳細に期した本レポートにより、アストロバイオロジーの分野のみでなく、将来のバーチャル会議開催に関する枠組みを提供しようと試みています。

 

図1 AbGradCon 2021のポスター。Credit: Lucy Kwok and the Logo Design Team (Irene Bonati, Thilina Heenatigala, Kristin Johnson-Finn, and Paula Prondzinsky).

 

Astrobiology Graduate Conference (AbGradCon)は、NASAのアストロバイオロジープログラムの支援を受けた学生と若手研究者によって組織される年次会議です。従来の学会よりも格式張っておらず、学生が初めて正式な学会発表を行う機会を提供しています。

 

2020年には地球生命研究所(ELSI)がAbGradConの国際会議の開催地に選ばれましたが、新型コロナウイルス感染症の影響で、会議は2021年に延期されました。しかし、2021年も新型コロナの影響は続いていたため、AbGradCon 2021 はオンライン上でバーチャルに開催され、26か国から119人が参加しました。

 

新型コロナウイルス感染症のパンデミックが始まって以来、多くの会議がオンラインの仮想空間で開催されてきました。オンライン会議には、移動の必要がなく、参加者の多様性が増加し、移動の際の二酸化炭素排出量を削減できるというメリットがあります。一方で、対面式の会議には、自発的に起こる活発な議論や交流会、偶然の出会いなどといったメリットがあります。

 

ELSIは、オンライン学会が提供できるメリットを最大化しつつ、対面式の会議の良さをできるだけ再現できるように、独自のアプローチでAbGradCon 2021を設計しました。

 

AbGradCon 2021の共同議長で、レンセラー工科大学准教授のKristin Johnson-Finn (AbGradCon2021 の時点で ELSI の研究者)は、次のように述べています。「私たちの最も重要な仕事は、コミュニティの構築、専門能力の開発、国際的な聴衆への科学的プレゼンテーションという特定の目標を、従来の対面形式なしで満たす方法を見つけることでした。そのために、典型的なZOOMベースのシンポジウムにいくつかの独自のオプションを組み合わせ、従来のオンラインシンポジウムでは提供できなかった機会を生み出すことに成功しました」

 

図2 現地開催の場合に使用予定だった会場とオンライン開催のために用意したバーチャル空間Gather.townの比較。Credit: Tony Z. Jia et al. International Journal of Astrobiology, 2022

 

 

AbGradCon 2021のすべての参加者は、事前に12分間の完全なプレゼンテーションか1分間のフラッシュトークを録画したビデオを提出しました。これにより、多くの参加者が時差や研究スケジュールに関わりなく、ビデオを選択してストリーミングすることができました。公開に同意したプレゼンターのビデオはNASA AstrobiologyのYouTubeチャンネルに公開されました。ライブストリーミングプレゼンテーションに続いて、各セッションの最後に30分間のブレイクアウトディスカッションが行われました。ランダムにグループ割りされた参加者は、Gather.town(図3)上でディスカッションを行いました。

 

 

図3 Gather.townを用いたブレイクアウトディスカッションの様子。参加者は自分のアバターを自由に動かして、好きな場所に移動できる。話し合いが行われている場所に近づくと、オンラインセッションが始まる。Credit Tony Z. Jia

 

実施後のアンケートでは、2021年に開催されたキャリア構築イベント(提案レビューパネル、サイエンスコミュニケーションワークショップなど)は概ね高く評価されており、ほとんどの参加者は有益で参加する価値があると感じていました。しかし、ほとんどの回答者が会議に満足していたにもかかわらず、バーチャルなAbGradConが対面会議の十分な代替物であると考えた人は、約半分に留まりました。

 

研究グループは、AbGradCon 2021の参加者のデータを解析し、北米からの参加者の要旨の評価が他の地域よりも有意に高いことを発見しました。このことは、すべての地域からの参加者からの提出物が公平に扱われるように、要約評価プロセスを標準化する必要があることを示唆しています。また、研究グループは、分野に関係なく査読者と要旨をマッチングするシステムを実装しましたが、レビュー結果は、分野に基づいて査読者と要旨をマッチングさせた場合の評価スコアと有意差がないことがわかりました。したがって、幅広い分野にわたる学際的な会議でも、要旨評価を公平に行える可能性が示唆されました。

 

2022年はAbGradConの開催はありませんが、2023年に米国で開催される予定です。

 

掲載誌 International Journal of Astrobiology
論文タイトル AbGradCon 2021: Lessons in digital meetings, international collaboration, and interdisciplinarity in astrobiology
著者 Tony Z. Jia1,2,*, Kristin N. Johnson-Finn1, Osama M. Alian3, Irene Bonati1,4, Kosuke Fujishima1,5, Natalie Grefenstette2,6, Thilina Heenatigala1,7, Yamei Li1, Natsumi Noda1,8, Petar I. Penev9, Paula Prondzinsky1, Harrison B. Smith1
所属 1. Earth-Life Science Institute, Tokyo Institute of Technology, 2-12-1-IE-1 Ookayama, Meguro-ku, Tokyo 152-8550, Japan
2. Blue Marble Space Institute of Science, 1001 4th Ave., Suite 3201, Seattle, Washington, 98154, USA
3. Department of Microbiology & Molecular Genetics, Michigan State University, 288 Farm Lane, East Lansing, Michigan, 48824, USA
4. Netherlands Institute for Radio Astronomy (ASTRON), Oude Hoogeveensedijk 4 7991 PD Dwingeloo, The Netherlands
5. Graduate School of Media and Governance, Keio University, 5322 Endo, Fujisawa-shi, Kanagawa 252-0882, Japan
6. Santa Fe Institute, 1399 Hyde Park Road, Santa Fe, New Mexico, 87501, USA
7. National Astronomical Observatory of Japan, 2 Chome-21-1 Osawa, Mitaka, Tokyo 181-8588, Japan.
8. Department of Earth and Planetary Science, The University of Tokyo, 7-3-1 Hongo, Bunkyo-ku, Tokyo 113-0033, Japan
9. Innovative Genomics Institute, University of California, Berkeley, 2151 Berkeley Way, Berkeley, California, 94720, USA
DOI 10.1017/S1473550422000258
出版日 2022年7月6日