ELSIの杉浦圭祐日本学術振興会特別研究員と宇宙航空研究開発機構(JAXA)の兵頭龍樹国際トップヤングフェローは、スーパーコンピュータを用いてラブルパイル球状天体1 を回転させる高度な数値シミュレーションを実行しました。その結果、小惑星の自転周期がある加速度以上である臨界値より小さくなる、かつ、岩塊同士がある程度以上の摩擦を持つ場合に、自転軸対称に全球的な雪崩が起こることを発見しました。小惑星で起こりうるこの雪崩によって、観測される小惑星のさまざまな特徴が定性的によく説明されることが明らかになりました。

 

図1:小惑星の画像(左から右に、Bennu、Ryugu、Didymos)。このような小惑星の特徴として、ラブルパイル構造で、コマ型で、赤道領域の膨らみがあるということが報告されています。Didymousには衛星Dimorphousが存在しています。各小惑星(および衛星)の相対サイズは見やすさのために厳密に表示をしていません。Credit: NASA, ESA, JAXA, modified by Ryuki Hyodo.

 

地球上では、アルプス山脈で起こった雪崩によって、ワイキキビーチまで崩れることはありません。しかしこれは地球 (直径約12,000km) の常識であり、直径1kmほどに満たない小惑星では話が全く異なります。そもそも観測されている直径1km程度以下の小惑星は、一枚岩ではなく、より小さな岩塊が重力で寄せ集まってできたラブルパイル小惑星であるものが多く、不思議にも、コマ型形状(または算盤の玉のような形)をしているものが多数存在します。また、赤道領域が膨らんでいる特徴も見られます。コマ型小惑星の周りに小さな衛星 (地球における月のようなもの) が回っている場合もあります(図1)。例えば、Ryugu (JAXA・はやぶさ2の探査天体)、Bennu (NASA・OSIRIS-Rex計画2の探査天体)、Didymos (NASA・DART計画およびESA-JAXA・HERA計画3の探査天体は)、全てそのような特徴を持つラブルパイル小惑星です。さらにDidymosの周りには、Dimorphosと名付けられた衛星が回っています。

 

このような小惑星は、水や生命の材料を太古の地球に運んできた天体とも考えられています。一方、これらの地球への衝突は、地球生命を危機的な状況に陥らせる原因になりえます。小惑星の軌道進化 (地球との衝突可能性)は、小惑星の形状、構成物質、自転状態によって大きく変わります。そのため、小惑星の形状進化や形成過程をきちんと理解することは、地球や生命の起源を探るためだけではなく、プラネタリー・ディフェンス (地球を小惑星の衝突から守ること )としても重要な課題です。

 

しかしこれまで、粒子間の摩擦などの効果を考慮するのはシミュレーションにおいて技術的に難しく、その上で観測される特徴を全て同時に説明することはできていませんでした。本研究では、世界最高レベルの高度な数値シミュレーションとスーパーコンピュータ4を用いて、ラブルパイル小惑星の自転加速に伴う形状進化の解明に取り組み、同時に構成粒子の物性 (特に摩擦力)の依存性も調べました。

 

その結果、次のような進化を遂げることが明らかになりました (図2および動画 https://youtu.be/Bj_TZYYSWKQおよびhttps://youtu.be/9xi7FN5ZEcAを参照)。
 

A. 小惑星の自転速度がある加速度以上で加速することで自転周期がある臨界値 (約3時間の自転周期) )より小さくなる5、かつ、構成する粒子がある程度以上の摩擦を持つ場合に、自転軸対称に表面の地滑り (全球で雪崩 )が起こる。これにより球形からコマ型へと小惑星の形状が変化する。(地球の自転周期はほぼ24時間なので、3時間は非常な高速回転)

B. 雪崩によって放出されたラブルパイル小惑星の表層物質は、その赤道面に円盤状にばら撒かれる。これによって、コマ型ラブルパイル小惑星の周りに、粒子円盤が形成される。

C. 粒子円盤は、衝突や自己重力で内外・両方向に拡散する。外側に広がった粒子は自己重力で集まりラブルパイル衛星となる。また内側に拡散した粒子は、コマ型ラブルパイル小惑星の赤道領域に選択的に再集積する。これによって、コマ型ラブルパイル小惑星の赤道領域が膨らみを持つようになる。

D. (本研究の主内容ではなく、今後の詳細な研究が必要であるが)、コマ型ラブルパイル小惑星およびラブルパイル衛星の形状や表面状態 (粒子サイズ分布や物質特性 )によっては、衛星の軌道が大きく広がり、最終的に衛星が失われることがある。そうならずに衛星の軌道が安定する場合もある。

 

以上の一連のプロセスを踏むことで、ラブルパイル小惑星で観測されるコマ型形状、赤道領域の膨らみ、衛星の有無、が全て説明できる可能性が明らかになりました。一方で、各ステップの「程度」は、小惑星の初期形状、自転の変化の仕方、構成粒子の様々な物性、および、小惑星内部でのそれらの不均質性に強く依存します。本研究のような理論モデル (数値シミュレーション)に各小惑星系の情報を組み合わせることで、各々の小惑星の過去と未来が、より鮮明に描かれるようになります。各小惑星における将来の詳細研究が待たれます。

 

図2:本研究結果のイメージ図。(a,b)自転周期3時間程度で高速回転するラブルパイル球形小惑星が自転軸対称に全球雪崩を起こす。これによりコマ型小惑星となる。(c)雪崩によって放出されたラブルパイル小惑星の表層物質は、粒子円盤を形成する。粒子円盤は拡散進化を続ける。(d)円盤の拡散によって衛星が形成する。また、ラブルパイル小惑星の赤道領域に再集積した粒子によって小惑星の赤道領域が膨らむ。(e,f)衛星の長期の軌道進化によって、衛星は失われることもあれば、比較的安定な状態に落ち着くこともある。RyuguやBennuは(e)に対応するかもしれません。Didymos- Dimorphos系は(f)に対応する可能性があります。Credit: Hyodo & Sugiura 2022, ApJL

 

[用語説明]
  1. ラブルパイル小惑星:一枚岩ではなく、岩塊が重力で寄せ集まってできた小天体
  2. OSIRIS-Rex:NASAが主導する小惑星サンプルリターンミッションです。そのターゲットは小惑星Bennuです。すでにサンプル採取に成功していて、2023年に地球に帰還する予定です。
  3. NASA・DART計画およびESA-JAXA・HERA計画: NASA・DART計画はNASAが主導する小惑星ミッションで、小惑星が地球に衝突する将来的なリスクに備え、探査機を意図的に小惑星(Dimorphos)に衝突させ、小惑星の軌道変更実験を狙うものです(DimorphosはDidymosという小惑星とバイナリー系を形成しています)。2022年9月に探査機の衝突は無事に成功しました。今後、2024年打ち上げ予定のESAが主導するHera計画がDidymos -Dimorphos系を訪れて、衝突の痕跡や軌道の変化具合をより詳細に調べる予定です(JAXAもHera計画に協力しています)。
  4. 数値シミュレーションとスーパーコンピュータ:本研究では国立天文台天文シミュレーションプロジェクトの計算機であるCray XC50システム (アテルイII) )を使用しています。
  5. 小惑星の自転速度がある加速度以上で加速することで自転周期がある臨界値 (約3時間の自転周期) )より小さくなる:小惑星の自転周期は、太陽光エネルギーの吸収と放出に起因したトルクによって変化します。また、小さな隕石衝突や、惑星との近接遭遇時にも小惑星の自転周期は変化する可能性があります。小惑星の形状変化が始まる自転周期の臨界値 (小惑星赤道面での重力と遠心力が釣り合う自転周期程度の値) は、約3時間です(約3時間で小惑星が1回自転する)。

 

 

(広報室注:この記事は、ISAS/JAXAの「あいさすGate」に掲載された記事に基づいています。

 

掲載誌 Astrophysical Journal Letters (ApJL)
論文タイトル Formation of Moons and Equatorial Ridge around Top-shaped Asteroids after Surface Landslide
著者 Ryuki Hyodo1 and Keisuke Sugiura2
所属 1.ISAS/JAXA, Sagamihara, Kanagawa, Japan
2. Earth-Life Science Institute, Tokyo Institute of Technology, Meguro-ku, Tokyo 152-8550, Japan
DOI 10.3847/2041-8213/ac922d
出版日 2022年9月29日