(以下は高知大学との共同プレスリリースです)

 

東京工業大学理学院地球惑星科学系博士後期課程の庄崎弘基さん(高知大学理学部卒業生)と、高知大学自然科学系理工学部門の長谷川精講師が、米国中西部に広く分布する約2億年前の砂漠の地層を調査し、これまで大きな謎となっていたパンゲア超大陸の大気循環の解明に成功しました。

 

今から約3~2億年前の地球には、北米大陸、南米大陸、アフリカ大陸、南極大陸などが全て一つに合わさった、パンゲア超大陸が存在していました(図1)。このパンゲア超大陸の時代には、大陸と海洋の比熱差が現在よりも大きかったため、大気循環や地表風系パターンが現在とは大きく異なっていたと考えられていますが、その実態はよく分かっていませんでした。特に、気候モデルシミュレーションによる地表風系の再現結果と、過去の風系パターンを記録している砂漠の地層(風成砂丘1)からの復元結果が一致せず、超大陸パンゲア時代にどのような大気循環が発達していたのかは大きな謎でした。

 

同研究グループは、米国中西部のユタ州・アリゾナ州・ワイオミング州などに分布する約2億年前の砂漠の地層を詳しく調査し、パンゲア超大陸の砂漠には縦列砂丘2という形状の砂丘が広く分布していたことを解き明かしました。そして、この縦列砂丘の配列方向から復元される当時の地表風系が、気候モデルシミュレーションで再現されていた風系パターンとよく一致することを明らかにしました。さらに縦列砂丘の発達には、地球軌道要素変動3に伴うパンゲア超大陸の大気循環の変化が関係している可能性も明らかになりました。

 

この成果は、2022年7月5日付けで欧州地球科学連合が発行するオープンアクセス科学誌「Climate of the Past 誌」に掲載されました。

 

【ポイント】

・約2億年前のパンゲア超大陸の砂漠には、縦列砂丘が広がっていたことを明らかにした。

・縦列砂丘の配列方向から復元される地表風系パターンが、気候モデルの再現結果と一致した。

・地球軌道要素変動に伴うパンゲア超大陸の大気循環変化が、縦列砂丘を形成した事を見出した。

 

 

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図1. (左) 約2億年前のパンゲア超大陸の大陸分布図。(右)調査対象の北米中西部(ユタ州、ネバダ州、アリゾナ州、ニューメキシコ州、コロラド州、アイダホ州、ワイオミング州)

 

 

【研究背景】

今から約3~2億年前には、大陸が集合して超大陸パンゲアが存在していたことが知られています(図1)。そして超大陸の周りを超海洋パンサラッサが取り囲んでいました。この超大陸パンゲアと超海洋パンサラッサとの比熱差によって、現在とは大きく異なった気候帯の分布や大気循環系が発達していたと考えられています。特に、季節毎に大気循環が大きく変化する、大規模なモンスーン気候“メガモンスーン”が発達していたと考えられています。先行研究(Rowe et al., 2007, Science)の気候モデルシミュレーションによると、現在の地球では砂漠環境が卓越する北緯20°~30°の地帯において、夏は低気圧の発達により降雨が増大する一方で、冬は高気圧の発達により乾燥気候が卓越し、季節毎に地表風系も大きく変化したことが再現されています。

 

一方で、パンゲア超大陸時代の風成砂丘の地層に記録される風系パターンの復元(Loope et al., 2004,Sedimentology)では、気候モデルシミュレーションの結果とは異なる風系が発達していたと指摘されています。このように地層記録の解析結果と、気候モデルシミュレーションの再現結果が異なっていたため、パンゲア超大陸にはどのような大気循環が発達していたのかが、大きな謎となっていました。

 

風成砂丘の地層から過去の風向きを推定
本研究では、米国中西部に露出する約2億年前の風成砂丘の地層(ナバホ砂岩注4など)を対象に、広域的且つ詳細な調査を行いました(図1左)。そして、パンゲア超大陸における地表風系パターンを復元するために、風成砂丘の地層に見られる堆積構造、大型斜交層理構造の方向(図2左)に着目しました。大型斜交層理構造は風により運ばれた砂粒が砂丘の前置面で堆積することで形成されます(図2右)。すなわち地層中に保存される大型斜交層理構造の方向を計測すれば、その地層が形成された時代のその場所の風向や、砂丘の形態を推定することができます。

 

 

図2.(左)ユタ州ザイオン国立公園に見られる風成砂丘の地層中の大型斜交層理構造。この地層では青矢印のように右から左向きの風向を記録。(右)風成砂丘の前置面および大型斜交層理構造が風向きを記録していることを示す概念図。

 

 

米国中西部の広域的な調査:2億年前の地表風系を記録
本研究では、米国中西部の7つの州(ユタ州、ネバダ州、アリゾナ州、ニューメキシコ州、コロラド州、ワイオミング州)で、2017年~2019年の3年間で総走行距離約2万kmにも及ぶ調査を行い、パンゲア超大陸の砂漠に広がった風成砂丘の地層中の大型斜交層理の方向を広域的に計測しました。その結果、約2億年前にこの地域にあった砂漠には、西風と北西風、北東風が広く吹いていたことが明らかになりました(図3)。この3方向の風系は気候モデルで再現された地表風系とよく一致しており、夏に卓越する北西風と、冬に卓越する偏西風及び北東貿易風の風向きを記録していることが分かりました。

 

 

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図3. 風成砂丘の地層に記録される2億年前の地表風系パターン

 

 

現世の縦列砂丘と類似した堆積構造

米国中西部の広域的な調査に加え、ユタ州ザイオン国立公園などでは地層を詳細に調査し、砂丘の形態についても調べました。その結果、現世の縦列砂丘の地中に見られる堆積構造(Bristow et al., 2000, Nature)と類似した特徴を示すことがわかりました(図4)。

 

先行研究(Loope et al., 2004,Sedimentology)による地表風系の復元では、砂丘形態を考慮せずに風成砂丘の大型斜交層理構造の単一卓越方向のみを抽出していました。しかしながら、砂丘は風向きによって形態や地中の堆積構造を変えていきます。例えば、1方向風が卓越する風系では大型斜交層理も1方向に卓越するように発達し、三日月砂丘を成します。2方向風系であれば大型斜交層理層も2方向に卓越し、縦列砂丘を成します(図5)。

 

調査した風成砂岩層の堆積構造をよく観察すると、大型斜交層理が2~3方向に互い違いに発達していることがわかります。この構造は現世の縦列砂丘で見られる内部構造とよく似通っています(図4)。この堆積構造は、ザイオン国立公園以外の多数の地点でも観察されました。さらに図3に示した地域ごとの風向きパターンを見ても、2~3方向の風向きが卓越していることがわかり、パンゲア超大陸の砂漠には縦列砂丘が広く発達していたことが明らかになりました。

 

 

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図4. ザイオン国立公園に露出する地層(ナバホ砂岩)に見られる堆積構造(上)と、ナミブ砂漠に分布する現世縦列砂丘の内部構造(下)

 

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図 5.(左)砂漠環境に発達する様々な砂丘形態の概念図。(右)ナミブ砂漠に発達する縦列砂丘の衛星画像(🄫 Google Earth)。

 

 

地球軌道要素変動に伴うパンゲア超大陸の大気循環変化と縦列砂丘の発達
先行研究(Winguth and Winguth, 2013, Glob. Planet. Change)の気候モデルシミュレーションによると、地球軌道要素変動による日射量変化がパンゲア超大陸の大気循環に影響を及ぼしていたことが示唆されています。本研究により復元された西風・北西風・北東風の3方向の風系は、それぞれ気候モデルで再現された日射量極小期の夏の風系、日射量極大期の夏風系、そして日射量極小期・極大期の冬風系と一致していました(図6)。

 

このような地球軌道要素変動に伴う風系の変化は、ザイオン国立公園の地層からも見ることができます。図4上の黄色線で示されるのは、風系の変化や乾燥-湿潤環境の変化によって形成される風成砂丘の堆積境界面(Bounding surface)です。ザイオン国立公園では、この堆積境界面が約3~4 m毎に発達していました。先行研究で報告されているナバホ砂岩の年代データに基づくと、この約3~4 mの期間はおよそ6~20万年間になります。すなわち、約10万年周期の離心率変動と類似する周期性で、風系の変化や乾燥-湿潤環境の変化が記録されていることが分かりました。これは、上述の気候モデルシミュレーションによる再現結果と整合的であり、縦列砂丘の発達に超大陸パンゲア時代の軌道要素変動が影響を及ぼしていたことが明らかになりました(図6)。

 

 

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図 6. 超大陸パンゲア時代の軌道要素変動に伴う砂丘発達の概念図
(左)日射量極大期では、冬に北東貿易風、夏に北北西風が卓越。(右)日射量極小期では、冬に北東貿易風、夏に北西風と偏西風が卓越。結果的に、縦列砂丘が北北東–南南東及び、北北西–南南東に配列する。

 

 

【成果の意義】
パンゲア超大陸の時代には、現在とは大きく異なった気候帯分布・大気循環パターンが発達していたと考えられていましたが、気候モデルと地質記録からの復元結果が一致しないために、その実態は大きな謎でした。本研究は、米国中西部に広く露出する約2億年前の風成砂丘の地層を対象に広域的で詳細な調査を行い、当時の砂漠には縦列砂丘が広く発達し、その配列方向が気候モデルで再現されていた地表風系とよく一致していることを明らかにしました。さらに、縦列砂丘の発達が、当時の地球軌道要素変動に関連していることを見出しました。今後は、パンゲア超大陸の特異な大気循環のもとで、緯度毎にどのような気候や環境が拡がっていたのか、解明が進むと期待されます。

 

また風成砂丘は地球以外の惑星(火星や金星)や衛星(土星衛星のタイタン)の表面にも見られることが知られています。NASAの火星着陸探査車・オポチュニティやキュリオシティは、約38~37億年前の風成砂丘の地層の画像を取得しています(図7左)。本研究の知見を応用することで、超大陸と超海洋が発達していた太古の火星における大気循環パターンの解明にも繋がる可能性があります。また土星衛星のタイタンには赤道域に縦列砂丘が発達する(図7右)という、地球には見られない特徴があります。将来的にタイタンの砂丘の地下構造に関する探査が行われ、本研究のような視点で解析がなされれば、その形成の謎についても明らかになると期待されます。

 

 

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図7.(左)探査車・オポチュニティによって撮影された、火星の風成砂丘の地層(🄫 NASA/JPL-Caltech/Cornell University)。(右)カッシーニ探査機によって撮影された土星衛星タイタンの縦列砂丘(🄫 NASA/JPL-Caltech/ASI)。

 

 

【用語説明】
注1)風成砂丘:砂漠環境に発達する砂丘。三日月砂丘や横列砂丘、縦列砂丘など様々な形状を持つ(図4)。風成砂丘の地層があることは、過去その場所に砂漠が存在していたことを示す。砂丘は、堆積時に風下側に前置面を作りながら前進し、地中に大型斜交層理を形成するため、地層中の大型斜交層理の方向から過去の風向きを復元することが可能(図2)。

注2)縦列砂丘:風成砂丘の形態のうちの一つ。線状の形態を持ち、90°~135°の角度で交差するような2方向の風で形成される。内部には2方向の大型斜交層理を持つ。

注3)地球軌道要素変動:太陽系天体との重力相互作用により、地球の公転軌道や自転軸の向きや傾斜角が、数万年~数十万年という長い時間でゆっくりと変化することを示す。自転軸の向きの変化(歳差運動)は約2万年周期で、自転軸傾斜の変化は約4万年周期で、公転軌道の変化(離心率変動)は約10万年周期で変化している。セルビアの地球物理学者ミルティン・ミランコビッチが、これら3つの地球軌道要素の周期変化により、地表への日射量が変動し、氷期-間氷期サイクルといった地球の気候変動を引き起こしたことを明らかにした。

注4)ナバホ砂岩:米国中西部(ユタ州やアリゾナ州)に広く分布する約2億年前の砂漠の地層の名称。ユタ州の先住民であるナバホ族から名付けられる。パンゲア超大陸の低—中緯度域に拡がっていた砂漠環境で堆積した地層となる。

 

【論文情報】

雑誌名:Climate of the Past

論文タイトル:Development of longitudinal dunes under Pangaean atmospheric circulation

著者:Hiroki Shozaki, Hitoshi Hasegawa

庄崎 弘基(東京工業大学理学院地球惑星科学系博士後期課程・地球生命研究所(ELSI)関根研究室),長谷川 精(高知大学自然科学系理工学部門講師 理工学部地球環境防災学科)

巻号:v.18, p.1529–1539, 2022

DOI: https://doi.org/10.5194/cp-18-1529-2022

 

【本件に関するお問い合わせ】
東京工業大学 地球生命研究所 広報室
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