ELSIは、生命や惑星系の起源と進化を探求する、活気あふれる国際的研究拠点です。しかし、科学的成果が広く認められていても、研究の背景にある個人の物語や動機、チームのダイナミクスはあまり表に出ることはありません。「ELSI Voices」は、こうした状況を変えることを目的としたストーリーテリング・イニシアチブです。インタビューや人物紹介記事を通じて、一般の方にも親しみやすく、学生にとっては刺激となり、共同研究者にとっては有益な形で、ELSIの教授たちを紹介していきます。これらの記事では、科学的な成果だけでなく、ELSIをユニークなものにしている文化、哲学、そして人々にも焦点を当てていきます。

 

 

1. 玄田教授の研究は、惑星の特性の起源に焦点を当てています。例えば、地球と金星は大きさが似ているにもかかわらず、なぜこれほど異なる特徴を持つようになったのか、などです。理論とシミュレーションを組み合わせた研究アプローチを具体的に示す最近のプロジェクトを一つ挙げ、その広範な意義について説明していただけますか?

 

私たちの研究室では、「惑星がどのようにして現在の姿になったのか」を研究しています。例えば、地球と金星は大きさがほぼ同じですが、表面環境は大きく異なります。地球には海があり生命が存在しますが、金星は極めて高温で、非常に厚い二酸化炭素の大気に覆われています。このような違いが、惑星形成のどの段階で、どのような過程によって生まれたのかを明らかにすることが研究室の目標です。多くの場合研究は、子供が口にするような「なぜこの惑星はこんなふうになっているの?」といった単純な疑問から始まります。

 

特に最近力を入れているテーマの一つが、約45億年前に地球が誕生した直後の表層環境の推定です。巨大な衝突(ジャイアント・インパクト)により、当初は地球の大半がどろどろに溶けた状態で、その後、原始大気や原始海洋が形成されました。その後も隕石の衝突が続き、地表や化学的性質を再形成していきました。こうした天体規模の衝突現象を実験室で再現することは難しいため、私たちはコンピュータシミュレーション、すなわち「数値実験」を通じてそれらを再現しています。この初期の環境を理解することで、地球はどのようにして生命が住める環境になったのか、また宇宙の他の場所でも同様の環境がどれほど一般的であるのかが明らかになるかもしれません。

 

 
2. 研究室では理論モデル、コンピュータシミュレーション、学際的な共同研究を組み合わせていますが、衝突現象から系外惑星の発見に至るまで、多様な手法や研究者をどのようにまとめていますか?また、ELSIのチームはその中でどのような役割を果たしていますか?

 

コンピュータシミュレーションすれば、必ず何らかの数値的な結果が出てきます。しかし、それが実際の自然で本当に起こったことなのかどうかはわかりません。そこで重要になってくるのが、シミュレーションを用いて予測を立て、観測や実験を通じて検証することにあります。その逆もあり得ることで、実験によって予期せぬことが明らかになり、シミュレーションがその背後にある物理的プロセスを理解するのに役立つこともあります。このように、シミュレーションと観測・実験は、お互いを補い合う関係なのです。

 

私自身は主としてシミュレーションを行っていますが、異なる手法を用いる研究者たちとの共同研究は不可欠です。ELSIには、実に様々な分野と研究手法を専門とする研究者がいますが、彼らとの交流が日々の研究の一部となっています。別の分野の研究者との会話は、自分だけでは思いつかなかった視点、さらにはまったく新しい共同研究へとつながることもあります。こうした点から、ELSIは私が追求したい惑星科学にとって、特に刺激的な環境です。

 

 
3. 玄田教授の研究の多くは、広大な宇宙において地球の特徴がいかに独特であるか、あるいは普遍的であるかを理解する上で役立つものです。将来を見据えた学生たちに対し、惑星を単に静的な世界ではなく、進化するシステムとして捉えるよう指導するために、研究室ではどのような体制を整えていますか?
 
研究室では、惑星を進化論的な観点から研究しています。単に惑星を現在の姿だけで理解するのではなく、「なぜ今この状態にあるのか」という問いを立てます。大気や内部構造、表面環境を理解するには、その形成過程、天体衝突、惑星内部の進化、大気がどのように獲得・喪失されたかを、一つの連続したシステムとして捉える必要があります。

 

学生には一つの専門分野だけに閉じこもらず、より広い視野で考えることを奨励しています。一人の学生がすべての分野の専門家になる必要はありませんが、自分の研究が惑星の歴史全体のどこに位置しているのかを常に意識してほしいと思っています。結果について議論する際、私は「この結果は惑星の進化史のどの段階に関係するのか?」や「どのような観測や分析によって検証できるのか?」と問いかけることがあります。理論、シミュレーション、観測、探査データの間を行き来することで、学生たちに惑星を静的な天体としてではなく、数十億年をかけて変化してきたシステムとして捉えてほしいと思います。

 

 

 
4. 今後研究室は、惑星の進化やハビタビリティに関して、どのような重要な課題に取り組みたいと考えていますか?またどのような課題が待ち受けているのでしょうか?
 
惑星探査により、組成や内部構造、地球に持ち帰られた試料に至るまで、別の天体についより詳細な情報が得られています。課題は、証拠を結びつけ、惑星がどのように形成・進化してきたかという一貫した物語を紡ぎ出すことです。私は、私たちの研究室が、惑星科学における一種の「ストーリーテラー」の役割を果たせれば、と考えています。

 

今後の探査には、エキサイティングな機会が待ち受けています。JAXAの「火星衛星探査計画(MMX)」では、火星衛星の起源と火星の歴史の両方を解明する可能性があります。金星については、かつて地球のように海があったのか、そして両者の進化の道筋はいつ分岐したのか、という別の疑問が浮かび上がります。シミュレーションを通じて、考えられる歴史の道筋を描き出し、将来のミッションで何が観測されるかを予測することができます。これらの予測を探査データと照らし合わせることは、生命の誕生が可能な環境がどのように生まれ、維持され、あるいは消滅していくのかを理解する手助けとなるのです。

 

 
5. 学生たちが大胆な質問を投げかけ、既成概念に疑問を呈し、自主的な研究に取り組むよう促しつつ、研究室全体へも貢献するように促すには、どうすればよいでしょうか。

 

研究において最も重要なのは、好奇心だと思います。優れた研究は、多くの場合、「なぜ?」という単純な疑問から始まります。たとえ子供が口にするような疑問でも、その答えが誰にもわからないのであれば、それは真剣な科学的疑問となり得ます。その答えを見つける作業は、必ずしも華やかなものではありません。私たちの仕事の多くは、プログラミングやデバッグ、計算結果の検証といった作業で占められています。それでも私たちが取り組み続ける原動力は、「知りたい」という欲求です。

 

そのため、私は基本的に学生に研究テーマを一方的に与えることはしません。議論を通じて、学生たちが自ら追求したい問いを見つけ、「それは本当に正しいのか?」と問いかけ、既成概念に疑問を投げかけるよう促しています。自立とは、一人で作業することではありません。学生たちは、プロジェクトの内容が異なっも、コードや結果、アイデアについて互いに議論します。私は、学生一人ひとりが自立した研究者として成長しつつ、支え合い、共に新しい科学を創り上げていくことを願っています。

 

 

 

【玄田英典プロフィール】
 
2004年に東京大学で理学博士号を取得後、東京工業大学でポスドク研究員を務める。その後、東京工業大学および東京大学で研究・教育職を歴任し、2013年に地球生命研究所(ELSI)にプロジェクト准教授として着任。2018年に主任研究者に就任、現在はELSI教授。

 

ELSIでは、惑星がどのように形成・進化し、特徴的な性質を獲得していくのかを解明する研究グループを率いている。理論とコンピュータシミュレーションを用い、地球の海洋や大気の起源から、巨大衝突、惑星の居住可能性、系外惑星の多様性に至るまで、幅広い課題を探求。シミュレーションを観測、実験、惑星探査と結びつけることで、なぜ地球が居住可能な惑星となったのか、宇宙の他の場所で同様の環境がどれほど一般的であるのかを解明することを目指している。

 

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PDF版はこちらからダウンロードしてください:https://www.elsi.jp/wp-content/uploads/2026/11/ELSI-Voices_Genda_Ja.pdf

DOI: https://doi.org/10.5281/zenodo.23681395

玄田英典教授のホームページ::https://members.elsi.jp/~genda/index.html