火星で陶器が発見されたら、どんな姿をしているだろう?
「火星陶芸プロジェクト」は、2025年1月から4月にかけて地球生命研究所(ELSI)がおこなった創造的かつ学際的なSTEAMプロジェクトです。本プロジェクトに参加した高校生たちは、惑星科学と陶芸を融合させ、「火星で陶器が発見されたらどんな形をしているか?」という問いに取り組みました。このプロジェクトでは研究者と高校生が協力し、将来の火星探査で古代陶器が発見されるという思考実験的シナリオを構想。参加者はこうした遺物が火星の環境や仮説上の文化をどう反映するかを考察しました。
参加者はまず2つの講義を受けました。火星の地質学と宇宙探査に関する講義、そして陶芸の科学と文化史に関する講義です。この知識セッションでは、火星の土壌特性、大気条件、地球の古代陶器様式が紹介され、本テーマに関する科学的・芸術的な基礎知識を得ました。
その後、参加者は対照的なアプローチを取る2つのグループに分かれました。グループ1(以下G1)は陶芸工房で実践作業を開始し、初期の着想に基づいて陶芸作品を成形。一方、グループ2(以下G2)は教授陣とのディスカッションを通じ、火星環境下で製作された陶器の姿の仮説をたてました。
次の回のセッションではグループが入れ替わり、FG2は工房で事前に仮説を立てたデザインを実際に形作り、FG1は教室に戻って作品の批判的考察と再解釈を行いました。
この「思考型学習」と「実践型学習」を融合した二重アプローチにより、学生たちは、単なる素材としてだけでなく、物語を紡ぎ、デザインし、科学的推測を行う手段として粘土と向き合うことができました。低重力環境で使用する道具をデザイン思考で構想し、CO₂が豊富な大気下での粘土化学や焼成について推測し、文化と環境が美学と実用性をどう形作るかを考察しました。
最終セッションでは参加者全員が集まりました。ELSIのThilina Heenatigala特任助教と東京科学大学 環境・社会理工学院 のGiorgio Salani 特任准教授 が主導した本プロジェクトは、学際的なSTEAM教育のモデルケースといえます。
惑星科学、材料工学、芸術、想像力を融合させた「火星陶芸プロジェクト」は、宇宙における人類の位置づけとその痕跡について、学生たちが批判的かつ創造的に思考する機会となりました。
謝辞:本プロジェクトは「東京工業大学基金プロジェクト-次世代のためのSTEAM教育」の支援を受け、更にAirTrunkより一部資金提供を受けました。