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研究ハイライト

小林 厚子研究員らの研究成果がPNASに掲載されました

マグネタイト微粒子の機械操作により氷晶形成をあやつる

農作物にあわせた氷晶制御システムの開発へ

要点
● 生体内マグネタイト微粒子を機械操作することで過冷却の促進に成功
● 過冷却における氷晶の体積膨張が最小になることを検証
● 個々の農作物にあわせた氷晶制御システム開発の可能性を示唆

概要
東京工業大学 地球生命研究所(ELSI)の小林厚子研究員らの国際研究チームは、、凍結過程の水溶液中に分散させたマグネタイト[用語1](磁鉄鉱=Fe3O4)微粒子を外部振動磁場中で回転させ、微粒子の界面付近を乱すことによって、過冷却[用語2]を促進させることに成功した。

過冷却水から生成する氷は細胞組織に与える損傷が少ないことが分かっている。このため、過冷却を促進させ、作物にあわせた氷晶[用語3]制御システムを開発することにより、計画的な食糧保存の実現につながる成果といえる。小林研究員らは微量のマグネタイトを含むセロリと牛肉に外部振動磁場をあて、凍結過程がコントロールできることを確認した。

フェリ磁性[用語4]を示すマグネタイトは自然界では大気中のダストとして、また多くの動植物組織内に極微量含有するが、凍結時には氷晶形成核となり、霜害として作物に重大な被害を与えている。

研究成果は日本時間2018年5月7日発行の「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」に掲載された。

研究成果
米国を拠点とするUS天然資源保護協議会の報告書によれば、世界の食糧の40%以上が、生産現場から台所の間で無駄になっている。生産地での霜害、台所では凍結保存の際の組織損傷も原因となっている。そのほとんどが、氷点下付近で凍結する氷が細胞壁を壊すことによる。

ところが、超純水は通常凍結する温度以下でも過冷却の状態を保つ。最終的には氷になるが、このような氷は細胞壁に与える損傷が小さい。研究チームは過冷却水から生成する氷の体積変化が最小になることを発見した。この原理を食糧の冷凍に応用できれば、凍結損傷を最小に抑えることができる。

小林研究員らはこれまでに、マグネタイト微粒子が多くの動植物組織に存在することを報告してきた。今回は僅かながらのフェリ磁性物質マグネタイト量を検出しているセロリと牛肉片に、地球の磁場より10倍から20倍程度強い磁場を外部振動させ、過冷却を促進した。

その結果、試料ごとに異なる凍結特性は、組織中に含有するマグネタイト含有量の違いによることが明らかになった。外部振動磁場で凍結過程がコントロールできるということは、試料内のマグネタイト含有量にあわせた調整が可能になるという、驚きの実験結果であった。この研究結果は、計画的な食糧保存、原種の長期保存・凍結保存技術に向けた医療への応用が期待される。

背景
水の凍結過程では水分子クラスター[用語5] が氷晶核サイトとなる金属・ミネラルなどの微粒子の表面に集まり、針状に結晶成長し、組織内の細胞膜を破壊する。凍結過程において、細胞組織の破壊を最小限に抑える手法が望まれていた。マグネタイトは、古典的なフェライトで、非常に強い磁性を示す物質である。小林研究員らは"生体内マグネタイト微粒子氷晶モデル説"に基づいて、生体内にあるマグネタイト微粒子のみが、振動磁場下で過冷却操作可能な氷晶核因子となることを解明しつつある。

東京工業大学は当時の電気化学学部の加藤与五郎・武井武の両教授によって築かれたフェライト産業の発祥地である。1930年、両教授が発明したフェライト強磁性物質は、磁気レコード用テープとして初めて使われ、その後、幅広く応用されている。

生体組織内に存在するマグネタイト微粒子の分散状態と異なり、合成マグネタイトを水溶液中に分散させることの困難が予想された。しかし研究チームの使用したマグネタイト微粒子は、国内のフェライト製造会社が湿式沈殿法で製造したもので、今回の実験結果に結びついた。マグネタイトの探索がフェライト専門分野から学際的な研究へと展開している。

今後の展開
氷晶の核形成は、地球・惑星科学においても、その気候・環境を考える上で重要な概念となる。マグネタイト微粒子が大気の構成要素となっている環境下においては、磁性は氷晶形成に影響する。例をあげると、非常に強い磁場[用語6]がある木星では、マグネタイトの果たす役割は大きいが、磁場がない惑星では小さくなる。

また、水が液体状態で存在するハビタブルゾーン[用語7]内の太陽系外地球型惑星では、大気の対流パターンが地球型のものとは全く異なり、マグネタイトが核となってできる氷晶雲対流が生じない。氷晶の核形成過程におけるマグネタイトの役割を理解することは、今後の気候変動モデルを考える上で大いに役立つと考える。

Magnetite aligned_L.jpg参考図  静磁場中で磁気方向に並んだ磁性細菌の電子顕微鏡画像。

磁性細菌内で形成されるマグネタイト微粒子は、強磁性を示すので、外部磁場の方向に応答する。同様に、マグネタイト微粒子は、動植物にも存在することが明らかになっている。本研究の基本となるマグネタイト氷晶核モデルは、この観察結果からヒントを得たものである。並んでいる黒い結晶は、単一磁区マグネタイトを示す。(画像:小林厚子提供)

用語説明
[用語1] マグネタイト : 磁鉄鉱。鉄の酸化物からなる鉱物で、黒色で光沢があり、強い磁性をもつ。主要な鉄鉱石。

[用語2] 過冷却 : 液体の状態のまま凝固点以下の温度まで冷却されること。

[用語3] 氷晶 : 氷の結晶。特に六角柱、六角板、樹枝状などの形をした、小さな氷の粒子のことを指すことが多い。

[用語4] フェリ磁性 : 結晶中に逆方向やほぼ逆方向のスピンを持つ2種類の磁性イオンが存在し、互いの磁化の大きさが異なるために全体として磁化を持つ磁性のことである。

[用語5] 水分子クラスター : 水分子が水素結合で結びついてできる集合体。

[用語6] 磁場 : 本論における磁場・磁気とは、惑星が持つ磁性をさす。地磁気は、地球により生じる磁場をいう。静磁界普通は静止した磁荷 (磁石) のつくる磁場をいう。

[用語7] ハビタブルゾーン : 宇宙における、生命の生存に適した領域。恒星の周囲をまわる惑星の表面において、水が液体で存在する温度になる領域を指す。

<California Institute of Technologyの関係サイトへのリンク>
https://www.caltech.edu/news/moving-magnetic-fields-disrupt-ice-nucleation-82175

掲載誌 Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America (PNAS)
論文タイトル Magnetic Control of Heterogeneous Ice Nucleation with Nanophase Magnetite: Biophysical and Agricultural Implications
著者 Atsuko Kobayashi1*, Masamoto Horikawa2, Joseph L. Kirschvink1,3 and Harry N. Golash4
所属 1 Earth-Life Science Institute, Tokyo Institute of Technology
2 Department of Systems and Control Engineering, Tokyo Institute of Technology
3 Division of Geological and Planetary Sciences, California Institute of Technology
4 Robotics Institute, Carnegie Mellon University
DOI http://www.pnas.org/cgi/doi/10.1073/pnas.1800294115
出版日 2018年5月7日

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小林厚子 研究員
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